アイヌ地域史資料集

著者は1958年生まれで、現在は小樽市の小学校に勤務し、最近では『アイヌ語古語辞典』『アイヌの歴史』を本書と同じ明石書店から公刊しています。まず全体を第Ⅰ部（前近代）・第Ⅱ部（近代以降）に分けて、蝦夷地と北海道では地域の区分が異なることをはっきりさせています。さらに、第Ⅰ部は西蝦夷編と東蝦夷編と北千島・北蝦夷地編に分け、それぞれの｢場所｣ごとに地図が添え、さらに文献から知られる多様なデータを集めています。例えば集落の戸数、首長の名、知行主の名、運上金の金額と場所請負人の名、産物など。第Ⅱ部の北海道編では14支庁ごと、南樺太編では市町村ごとにまとめています。冒頭に8ページにわたる地名対照表があり、編ごとに凡例があります。第Ⅰ部と第Ⅱ部それぞれに資料の出典をまとめているのも親切。巻末の索引は網羅してはいないが主な地名・人名を載せてあり、必ずしもメジャーではない｢貝澤藤蔵｣を項目に入れていたのには感服しました。コラムの形式でアイヌ人物伝や伝承を紹介しているので、研究者以外にも裨益するところは少なくないと思います。随所にある｢事件｣｢解説｣という囲み記事では、アイヌ民族と人権への深い関心や国策への批判がうかがえます。長年アイヌの歴史や文化を教育現場で伝え続けてきた人が本当に言いたかったことのエッセンスであり、本書がたんなる資料の集成にとどまらない理由ではないでしょうか。