原子力 その隠蔽された真実

原子力発電の起源は原爆開発に帰されるが、兵器開発がなぜこうなったかについては物理学の学問上の進展と技術開発、そして、世界戦争の政治史軍事史的段階が重なった上でのことであることは言うまでもない事かも知れないものの、考えてみればそのどれ一つでもが欠けていればこうはならなかったということは考えさせられることではある。戦後、核兵器は戦争抑止の理論的裏付けとなり、他方で本書の後半も半ばを過ぎて終盤の数章で扱われる核の平和利用としての原発の歴史と並走して今日がある。原爆（核兵器）と原発（核の平和利用）は論理上分離させられ、かつ実質的に共存してきた。これは現代社会組織の複雑さを考慮してもまやかしと言えばまやかしである。ところで、時宜を得てと言うべきか、最終の第十八章は日本語版の為に追加されたフクシマ論である。今後あらゆる機会に比較されることになろうスリーマイルとチェルノブイリにも一章ずつが割かれている。詳細は本書そのものに譲るとしても、一つは、前者が１９７８年、後者が１９８６年に起こっていることから、８年、１５年の倍数が単純に想起されなくはない。それで言うと、次の大事故は２０４０年までに起こる、それもフランスでという確率論になろう。これは逆に言えば少しずつでも原子力を飼い慣らすことはできてくる、安全は完全にはならないものの少しずつ高められる、それがそれによって滅びる前にできるかどうかだけだ、と言えるかもしれない。私は何も賛成し推進しようと思っているわけではないが、今回の事故でフランスがこれを廃止できるわけではない現実からすればそうなるだろうと考えるまでだ。本書にも記述されているように、スリーマイルは不用意な火災事故を発端とし、チェルノブイリは低出力稼働のマニュアル作業ミスによる制御ミスであり、フクシマはあくまで震災が発端であった。それぞれ、起因真因は違うが、それぞれから工学者が学ぶことはその下位の無数の項目から少なくない。しかし、それにしても次の大事故が何によってもたらされるか、起こってしまうかは確率論から導き出せるようなものではないのだ。